ミリ風呂

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特殊部隊による飛行機や船舶の制圧(突入)

 本投稿においては、ハイジャックされた旅客機の制圧やシージャックされた船舶の制圧方法について簡単に記述する。対テロ部隊による急襲は、建物のほかに旅客機、バス、電車等『直線状』の目標が多い。また、船舶を制圧する場合もある。旅客機(直線状の目標)と船舶のそれぞれの制圧方法について簡単に紹介する。

 旅客機(直線状の目標)の制圧

 直線状とは、まっすぐの意でありバスや電車の形を思い出しもらえば分かる。いずれも狭く移動に使える空間は限られている。急襲チームが銃弾を避けられる場所はほとんどない。一般に旅客機に限らず直線状の目標は突入口が限定されるため難しい。

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 旅客機は窓が機体の側面全体にあるため、接近する急襲部隊が見つかりやすい。また、突入口もドアと非常口に限られることが多い。突入した隊員が、コックピットに潜んでいたテロリストに撃たれる可能性もある。

 なので諸外国の特殊部隊(対テロ部隊)は、空港等でハイジャック訓練を繰り返している。そして航空機と空港の運用についても学んでいる。例えば、飛行機の死角、ハッチを開けるとコックピット内のどの警告灯が点灯するか、爆薬で開けやすい場所はどこか、といったことを学ぶ。

 典型的なハイジャック事件では、旅客機が着陸すると狙撃・観測チームを周囲に配置する。機体の観測担任区域を区分し、名前を付ける。

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あくまで一例である。テロリストの活動が特に目立つ区域や急襲部隊が突入する場所には、狙撃手を増強することがある。

 各区域(例えば『パパ1』)につき、1個狙撃・観測組が配当される。上記の例では少なくとも8個の組が情報を収集し、テロリストの動向を指揮所に伝える。

 急襲部隊は、航空機の死角である真後ろから接近し配置に着くことが多い。万一、テロリストに発見された場合を考慮して狙撃手が援護する。

 急襲が始まると同時に、狙撃手が窓から見えるテロリストをできるだけ多く無力化する。テロリストを狙った弾は、機体や窓を貫通するので、披甲(真鍮製の外皮)がない弾丸が使われる。普通の弾では、機体や窓を貫通した際に破片が発生し、人質を傷つける恐れがあるからだ。

 そもそも航空機を離陸できないように狙撃することもある。その場合はバレットM82A1のような50口径の狙撃銃を使用する。

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バレットM82A1

 急襲部隊は通常数か所から機内に突入する。テロリストを麻痺させるために特殊閃光音響弾を投入した直後に突入することが多い。また、機体の上部(機体断面の3分の1部分)を突入のタイミングで狙撃し、乗客に注意を促すと同時にテロリストの注意をそらすこともある。最後の銃撃戦は、首謀者の籠るコックピットで行われることが多い。

 船舶の制圧

 客船のシージャック事件は一般に少ない。理由は、いくつかある。

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① 客船は大きいので船を掌握して数百人規模の乗客を監視することは難しい。

② 一度船に侵入したテロリストは、船という小島(周囲は海)に拘束される。

③ 船を警察や軍隊で包囲することは簡単である。

④ 急襲部隊の突入を防ぐには、船は大きすぎる。

 しかし、シージャック事件が生起すれば、まずは情報収集から実施する。人口衛星、航空機、艦船等で追跡するとともに船主から青写真を手に入れる。急襲部隊は、同型船を用意し、訓練を重ねることにより急襲要領に係る練度を向上させる。

 船から空と海面への視界を遮るものはないので、急襲は通常暗夜に行う。まず狙撃部隊と急襲部隊を乗せたヘリが船の後方から低速飛行で接近する。狙撃部隊のヘリが先行して船の両側・急襲部隊の降着する船尾に対して45度~60度の位置でホバリングし、援護態勢を確立する。つづいて急襲部隊が降着し、作戦を開始する。急襲部隊の隊員は、友軍相撃を防ぐために反射性のテープや赤外線を放射する化学スティックを身に着ける。

 狙撃部隊は、なるべく多くのテロリストを無力化するとともに、テロリストの配置、仕掛け爆弾の有無、武器の種類、安全な経路等について情報を集め、急襲部隊に伝える。

 ヘリを使わずに制圧する場合もある。高速艇のエンジンを切って静かに船尾に近づき、船に乗り込むのである。スキューバダイビングや潜水艇なら昼間でも近づくことができる。海面から船に乗り込む場合は、塗装作業用の伸縮棒や鉤のついた縄梯子を使ってよじ登る。

 どの方法で乗船したにせよ、急襲部隊は基本的に一列縦隊でテロリストや人質を処理しながらブリッジ(船橋)へ向かう。小部屋は2名で掃討する。隊員2名が船室に入ると、すぐに左右に分かれて壁沿いに前進し、受け持った警戒区域武装したテロリストがいれば撃つ。逮捕者は船室に『固定』される。なので隊員は最低6名を拘束できるだけの器具を携行する。

 食堂や船員休憩室のような大部屋は4名で掃討する。そうして船室から船室へ、甲板から甲板へ掃討してゆく。急襲部隊は船内の空間に応じて適切な隊形をとる。L字型の廊下は1名で、T字型の廊下は2名で、十字型の廊下は3名で、屋内の階段は1名で、屋外の階段は4名で、ブリッジは4~6名で掃討する。

 ブリッジを制圧すると、後続部隊が船に降着し人質や負傷者の処理をする。その間、急襲部隊は船底部を掃討する。通信室、機関室、操舵室を引き続き監視し、テロリストが生き残っていても船に損害を与えられないようにするのだ。船内の掃討が終わり、逮捕者が抜け出していないことを確認後、急襲部隊は引き上げる。

 

 テロリストへの実力行使は、『スピード、奇襲性及び打撃力』が重要である。