ミリ風呂

硬派なミリタリー系ブログ

特殊部隊による建物制圧(突入)

 本投稿においては、特殊部隊であるテロ対策部隊がどのようにテロリストが占拠する建物を制圧するかを簡単に記述する。

 テロリストへの実力行使(急襲)における重要な3要素を改めて紹介する。『スピード、奇襲性及び打撃力』である。

 大部分の人質事件は屋内で起きるので、テロ対策部隊は訓練時間の多くを建物への急襲訓練に配当する。

 実際にテロリストによって建物が占拠されると警察は偶発的な衝突を防ぐために市民や報道陣の立ち入りを規制する。この際、二重の阻止線を構成することが多い。同時に狙撃・観測チームを配置して、事態を封じ込める処置をするとともに情報を収集する。集めた情報は無線等で戦術指揮所(CP)に送られる。

① テロリストの人数

② 兵器の種類 

③ 仕掛け爆弾の有無

④ テロリストの動向 

⑤ テロリストと人質を判別するための特徴

等は重要な情報である。

敵情(テロリストの配置等)の誤認を防ぐとともに簡明な情報共有のために、建物の窓にはSOP(作戦行動規定、あらかじめ決めておくことで有利になる手順のこと)が適用される。以下に一例を示す。

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窓の奥にいるテロリストを監視する上で名前が必要である。

 上図を見て頂きたい。この建物は、4階建てであり上空から見ると四角形である。建物の窓は、例えば以下のようなルールを付ける。(SOP)

① 建物の正面を『白』、裏は『黒』、左側は『緑』、右側は『赤』と呼称

② 窓の位置は『最上階(上)から1階(下)、左から右』へナンバリングする。

(例その1)「タンゴ 白 1 2』 ⇒ 写真の赤円表記の窓にテロリストを発見

(例その2)「タンゴ 白 3 4』 ⇒ 写真の青円表記の窓にテロリストを発見

 このように窓に対して名前を付けることで情報の共有がスムーズになり誤認も防ぐことができる。窓から見えるテロリストの行動を逐次CPへ送信し、行動パターンを把握するのだ。

 建物への突入を計画するために急襲部隊はまず、建物の青写真を入手するとともに当該建物の清掃業者や建築士に対しても情報を収集する。そして内部構造を把握して突破口となるうる場所を把握する。

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図面を使って突入口を検討する。本物同様の模型を構築することもある。その模型を使って訓練してから実力行使にでる場合もあるからだ。

 突破する場所が決まれば爆薬を仕掛けてドアや外壁を破るだけである。突入の直前には、『スピード、奇襲性及び打撃力』の原則に従い必ず何らかの方法で『テロリストの注意をそらす』ことが試みられる(陽動作戦)。以下に例を列挙する。

① 突破口とは反対側に特殊閃光音響弾を投入

② 別の階の窓に木製のバトン弾(エアガンで使うBB弾のような非殺傷性の弾)や催眠弾を発射

③ ヘリコプターを低空飛行させる。

④ 建物への電力を止める。

 突入時期は夜明け前が多い。テロリストの眠気と暗闇を利用するためである。

 建物への突入は、少なくとも2か所から実施するのが定石である。この時、1組の部隊は屋上又は最上階から突入し、1階ずつテロリストを掃討しながら降りていく。この戦術は、テロリストに背後を襲わないようにするためのものである。

 夜間の急襲では隊員が暗視眼鏡を利用できるように建物への送電を止めることが多い。テロリストが暗闇の中を右往左往する一方、部隊は暗視眼鏡で行動を容易にすることができる。

 建物への突入後、各部隊は一列縦隊で素早く行動することが多い。ただし、廊下や階段等の狭い場所・通路では危険(密集しているので機関銃の掃射に弱い)なので、地形に適応して各人間隔を広げる。場合によっては、成型炸薬等で新たに『廊下』を作る。部屋と部屋の間を爆破してネズミ穴を作るのである。

 いずれにせよ、テロリストに行動を予測されないように注意する必要がある。例えば、リズミカルな行動を避け、部屋に入る姿勢、進入角度を変えてテロリストに場所を悟られないようにする。部屋によって突入する隊員を2名、4名、6名等に変える。部屋への突入は、ボタンフック法で2名ずつ入ることもあれば、X字突入法で一人ずつ入ることもある。